2025年7月22日

大塚国際美術館② ここでしか出会えない展示の魔法

 


🎨 陶板画というもうひとつのアート

ご存じかと思いますが、大塚国際美術館の展示絵画はすべて陶板画です。
「どうせレプリカでしょ?」と思う方もいるかもしれませんが、 
しかし、これはただの複製ではなく、独自の技術で生まれた陶板画という“別のアート”になっているのです。

「陶板画は、原画を高精度で撮影・解析し、色を分解して専用の転写シートを作成。 
それを陶器の板に焼き付け、職人が釉薬を重ねて筆遣いや質感まで再現していきます。 
1000度以上の高温で焼成され、色彩や立体感が焼き物として定着することで、2000年以上色あせない作品が完成します。」

この技術によって、世界26カ国、300か所以上の所蔵先の名画1000点が、一箇所で「触れられる距離」で展示されているのも大きな魅力。 
しかも、システィーナ礼拝堂やスクロヴェーニ礼拝堂などの空間そのものを原寸で再現しているので、絵画だけでなく建築空間のスケール感まで体感できるんです。

本物とは違うからこそ、“本物ではできない体験”ができる場所。 
それが、大塚国際美術館の最大の魅力だと思います。





《システィーナ礼拝堂》

バチカンにある教皇専用の礼拝堂を再現した大塚国際美術館の代名詞とも言える展示。 
祭壇の後ろにはミケランジェロが描いた「最後の審判」天井には「創世記」。



紅白で米津玄師さんが歌ったシーン(2018年)で、一気に全国的に知られるようになった場所ですね。 
映像などで何度も見てはいたものの、実際の空間に立つと、想像を上回る没入感です。



こちらでは定時に説明が聞けます。

ちょうど朝一の回でしたので、美術館の概要から、システィーナ礼拝堂の説明、館内の絵画の見どころの案内を聞くことが出来ました。
この回のOさんの説明が、ところどころ劇的で、それがまたいい声ですし!めっちゃくちゃ上手で!!わかりやすかったです。
 


ミケランジェロは33歳で《天井画》の制作に取りかかり、1508年から1512年までの約4年間をかけて完成させたが、仰向けで描き続ける過酷な作業により心身ともに疲弊し、自らを“ぬけがら”と表現するほどだったと言われており、さらに60歳を過ぎてから描いた《最後の審判》では、より深い精神性と重厚な構図を通して、地獄の裁判官ミノスの顔に自分の嫌いな儀典長を描き込むなど、怒りや葛藤を絵に刻みながら、自分自身の皮膚を持つ聖バルトロマイの姿に“抜け殻となった自画像”を重ねるという、魂の限界まで絵に向き合ったエピソードを教えてくれました。


まだ入口の一歩目なのに、ワクワクが溢れて仕方ない!!







《聖ニコラオス・オルファノス聖堂》

ギリシャ・テサロニキにある小聖堂を再現した展示で、14世紀のビザンティン壁画に囲まれた空間、 この聖堂まったくご存じない(笑)のですが、この立体的な環境展示なので現地に行った気分の疑似体験ができたはずです。

この壁画、目の前にあったら触ってみたくなりませんか?
触れるんです~~!!

これ、見た感じから想像するような、ざらっとした触感でした。

検索してみても、でてくるのは大塚国際美術館ばかり(笑)
こんな素敵なブログを見つけました⇒イタリア徒然

こんな歴史的な芸術に“触れる”ってほんとすごい体験でした。




《秘儀の間》

ポンペイの豪邸の一室を再現した展示で、壁一面に描かれているのは、ワインの神ディオニュソスへの入信儀式とされる場面。 
「ポンペイ赤」の壁に等身大の人物たちが連続して描かれていて、酔いや踊り、仮面、鞭打ちなど、神と一体になるための“秘儀”がドラマチックに展開されてます。


すぐそばには、再現された古代のワインや壺や器の展示もありました。






《スクロヴェーニ礼拝堂》

イタリア・パドヴァにある小さな礼拝堂を再現した展示で、ジョットが描いたフレスコ画が空間全体を包み込んでいます。

天井は星空のようで、このバランスが美しすぎてとても感動しました。
ちなみに床も再現されていて六芒星模様です。

この空間にず~~といたかったのですが、これで、まだまだ序盤なので進んで行きます。




《聖テオドール聖堂》

トルコ・カッパドキアの奇岩地帯に実在する岩窟聖堂を再現した展示で、10世紀前半に聖テオドロスに捧げられた空間。 
岩をくり抜いた壁にキリストの生涯が描かれ、奥の祭室には半球型です。

壁の凹凸や床の砂まで細かく再現されていて、実はこの展示が一番「現地に来たかも…」と思える感覚に包まれました。




《エル・グレコの部屋》

スペイン・トレドを拠点に活動した画家エル・グレコの作品を集めた空間で、中央にはナポレオン戦争で破壊された幻の祭壇衝立画が、世界中の美術館に散らばった6点をもとに原寸で復元されていて、これこそまさに“本物では体験できない空間”。これが“大塚国際美術館のアート”の真骨頂ですね。





《快楽の園》

ヒエロニムス・ボスが描いた三連祭壇画で、左右のパネルが蝶番でつながれており、開閉できる構造になっていますが、大塚国際美術館ではこの扉が自動で開閉する演出がされています。






《アテネの学堂の部屋》

ラファエロが描いた《アテネの学堂》は、バチカン宮殿「署名の間」の壁画で、古代ギリシャの偉人たちが一堂に集う壮大な構図です。

本物では近づけない距離まで寄れるので、人物の表情や小物までじっくり鑑賞できます。




目の高さにあることで、細部までじっくり見られて、パズルを組み上げる時のような細かな部分の発見が次々にあるのが楽しいです。



こちらではリュベンス読みですね。


《キリスト昇架》

子どもの頃に見た、『フランダースの犬』の物語のアニメでは、ネロがずっと憧れていたルーベンスの絵《キリスト昇架》《キリスト降架》は、教会の中でカーテンに隠されていて、普段は有料でしか見ることができない設定でした。

物語の最終回、吹雪の夜にネロが教会にたどり着いたとき、偶然カーテンが開いていて、月明かりに照らされた絵が姿を現すという演出が、あの有名なクライマックスになっています。

特定の宗教画や礼拝堂の再現空間では音楽が流れる環境演出がされていて、
こちらの展示では「アヴェ・マリア」の荘厳な音楽が流れていました。


とても楽しみにしていた展示のひとつだったのですが、教会をイメージしたこのスペースで、大きな声でずっとおしゃべりをされている年配のご婦人がいて、しかも内容は美術とはまったく関係のない“通院の話”や“家にコウモリが出た”というような話題…。

しばらく話が落ち着くのを待ってみたのですが、話が途切れる気配もなく、鑑賞に集中したくても、それが少し難しくなってしまいました。

館内には休憩スペースや椅子もたくさんあります。

こちらの展示空間には荘厳な音楽が流れるなど、演出の一部として静けさも大切にされている場所です。

だからこそ、ほんの少しだけ遠慮してもらえたら…と思わずにはいられませんでした。





《モネの庭》

《睡蓮》の連作をぐるりと360℃囲むように設置された大型パネル。
睡蓮のプールのような・・・(笑) 大型のフォトスポットですね。



《火焔土器》

火焔土器を持ち上げることも出来ます。

大塚国際美術館では、新潟県長岡市・馬高遺跡出土の重要文化財の火焔型土器を原寸で再現。

 一方、先日見た国宝展で展示されていたのは、十日町市・笹山遺跡出土の国宝指定の火焔型土器で、出土場所が異なります。

ところが、最初に発見された馬高遺跡出土1点だけが「火焔土器」と呼ばれるそうで、
先日の国宝は「火焔土器」と呼ばれているそう・・・。





実は、先日の国宝展で、この土器の中がどうなっているのか、ずっと気になっていたんです。どれくらい深いのか…。 
のぞきこんで見ると、底までしっかりと空洞があって、実際に煮炊きした痕跡まで再現されていました。

国宝展では、つま先立ちしても、上からのぞきこめませんでしたから・・・。

私にはとてもタイムリーな展示で大変満足しました。


そして大人気のゴッホの《ひまわり》です。





大塚国際美術館では、戦災で焼失した“幻のひまわり”を含む、ゴッホの「花瓶のひまわり」全7点を原寸で再現展示しています。
 特に焼失した1点は、かつて芦屋の実業家が所蔵していたもので、1945年の空襲で失われた作品。
濃い青の背景に咲くひまわりが印象的で、陶板技術によって“もう見られないはずの絵”がよみがえっています。

展示室には、ゴーギャンが描いた《ひまわりを描くゴッホ》も並び、ゴッホが夢見た「黄色い家」のアトリエでの制作風景が垣間見えます。 


ところで、「どれが本物のひまわり?」という声が聞こえてきました。 
展示されているのはすべてレプリカですが・・・
「ひまわりは1点だけ」と思っている方は意外と多いのかもしれません。 
でもそんなふうに、気軽に思ったことを話せる空気感が大塚国際美術館ならでは。
 構えずふらっと訪れて、アートと自然に向き合える。
――そこが、この美術館の魅力だなと改めて感じました。


0 件のコメント:

コメントを投稿

このブログの人気記事